アルメニアのブランディーを、ほんとうに久しぶりに飲んでいる。
20年以上前に、札幌のロシア料理店で飲んで以来かも知れない。
故
米原真里さんの『ロシアは今日も荒れ模様』(講談社文庫)を再読し、どうしてもアルメニアブランディーが飲みたくなった。
旧ソ連に属していたアルメニアとアゼルバイジャンは、激しい
民族対立関係にある隣国同士だ。
ソ連崩壊直前の80年代末、アゼルバイジャン内のアルメニア人自治州
がアルメニアへの帰属換えを訴える運動を展開し、民族対立は激化する。
アゼルバイジャンの首都・バクーにほど近いスムカイトという都市では、
アルメニア人が襲撃・略奪の被害者になり、多数の死傷者が発生する。
このようなアルメニア人に対する強圧が『世界』(岩波書店)に掲載され、
その記事を目にしたB市の市長が、現地視察を行おうと試みる。
B市との提携をもくろむソ連政府の思惑もあり、B市長のアゼルバイジャン訪問は
実現し、米原氏が通訳を務めることになる。
アゼルバイジャン関係者は、当然のことながら、「民族対立など存在しない」
「リンチなどなかった」と繰り返し、日本を礼賛するコメントを続ける。
当時の共産党第一書記は、民族対立関係の話題を強引に打ち切り、
隣室での豪華宴会になだれ込ませ、美辞麗句を重ねた挨拶を述べる。
アゼルバイジャンのブランディーが注がれたグラスを前に、
B市長は、次のような返礼コメントを述べた・・・・
「いやぁ、わたしはアルメニアのコニャックが大好物でしてねぇ」(238頁)
これを初めて読んだとき、私は爆笑するとともに、拳を握り締めた。
この絶体絶命の事態を、どう通訳するのか・・・・・
米原さんは、「カスピ海に浮かんだ死体が二つ脳裏にちらついた」(238-239頁)
とユーモアを込めて記しているが、心臓が凍りつく思いがしたのではないだろうか。
しかしこのような状況でも瞬時の機転で乗り切るのが、超一流の通訳。
彼女は次のように「誤訳」したという。
「いやぁ、今までアルメニアのコニャックが世界一かと思っておりましたが、
お国のには歯もたちませんなぁ」(239頁)
たちまち聞き手一同は、相好を崩したとのこと。
「良心的」なB市長の無神経な発言が象徴するように、民族関係に鈍感な人って
ほんまに多いですねぇ・・・・
能天気な植民地主義万歳映画『
カサブランカ』を「名画」と絶賛する「映画ファン」。
北海道に住みながら、当地の地名の由来であるアイヌ語、先住民アイヌに無関心な「道産子」。
東北人が抱く関西人への反感に無自覚・無神経な「関西弁スピーカー」。
「朝鮮人」と言わず、「韓国人」「韓国の人」「朝鮮の人」などと言うことが「良心的」と
考える人たち・・・・・