評伝『星新一』から受けた刺激が、まだ抜けません。
星さんに共通する発想力・想像力を持つマンガ家として、
私が連想するのは藤子・F・不二雄(以下藤子F)さんです。
藤子Fさんが1960年代末から80年代初めにかけて
描いたSF短編は、マンガ史上に残る傑作ぞろいです。
人間という動物、地球という惑星を客観視・俯瞰する
作品群は、藤子Fさんならではの世界です。
藤子不二雄A(以下藤子A)さんも、数多くの秀作短編を描いていますが、
藤子Aさんは人間心理の暗部をえぐった、ブラックユーモアの傑作が多いですね。
「ひっとらあ伯父さん」「北京ダッグ」など・・・・
これらの救いのないダークなユーモアも、超一級品です。
藤子Aさんの作品世界については、また改めて書きます。
さて、私がおすすめしたい藤子FさんのSF短編は、
「ミノタウロスの皿」です。
青年誌からSF短編の依頼を受けたとき、
藤子Fさんは、自分の絵は「お子様ランチ」だから・・・と
躊躇したらしいですが、あのSF傑作群は、
一見可愛らしい、すっきりした読みやすい藤子Fさんの
絵柄あってゆえだと、私は思います。
牛が支配する惑星に不時着した地球人が、その惑星で
家畜として生きる人類(人類はそれを当然のことと納得している)
の一人であるミノアという少女に恋し、生贄になる彼女を助けようとする
悲喜劇は、下の絵柄ゆえに、一層読み応えが増します。
(「ミノタウロスの皿」、『カンビュセスの籤』(中央公論社)、1987年、272-273頁)
抜群の発想力・想像力と、読みやすい絵柄・文体。
そして、人間に対する底知れぬ絶望感と、絶望しきれぬやさしさ・・・
藤子F作品と星作品の共通点です。