豊崎由美というひとの文章をときどき目にするたびに、
観察眼の確かな人だなぁという印象を持っておりました。
『文学賞メッタ斬り!リターンズ』(PARCO出版)という本を
読み、その思いを新たにしました。
大森望氏との共著であるこの本は、「プロの小説読み」が、
文学賞の審査員たちをおちょくるという「からかい芸」を
味わいながら、作家・作品群に対する批評を読むことができる
という、「ブックガイド」としても充実しています。
島田雅彦氏を招いた巻頭の鼎談も、楽しめます。
豊崎・大森両氏が高く評価していた、堀江敏幸著『雪沼とその周辺』(新潮社)
を買ってみました。
7作の連作短編集の1作しかまだ読んでいませんが、
上手いですね。
さびれたボーリング場が迎えた最後の営業日の夜を
舞台にした「スタンス・ドット」というその作品は、亡妻と、
かつてのレッスンプロに対する店主の追憶が、物語の
柱といえます。
閉店間際に偶然来店した若い男女が、その追憶への
案内役を演じます。
20代とおぼしき女性の言葉遣いが、あまりにも「キッチリ」
しすぎているのが不自然(ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』のようです)
ですが、読後感は、「上手いなぁ・・・・」のひとことです。
抵抗なくすっと読めるのですが、実に読み応えがあります。
店主の心理描写が、絶妙ですね。
抜群の技術に支えられた、一見(正確には一聴ですね)
あっさりとした、端麗・流麗な、ビル・エバンスの演奏に
通じるような気がします。
『雪沼とその周辺』。
残り6作も、じっくり楽しみたいですね。
ちなみに私の好きなジャズピアニストは、「流麗」ビル・エバンスと、
「クセあり」セロニアス・モンクです。
「溌剌かつセンシティブ」上原ひろみもいいですね・・・