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堀江敏幸『雪沼とその周辺』

豊崎由美というひとの文章をときどき目にするたびに、
観察眼の確かな人だなぁという印象を持っておりました。

 『文学賞メッタ斬り!リターンズ』(PARCO出版)という本を
読み、その思いを新たにしました。
 
堀江敏幸『雪沼とその周辺』_c0040369_21162828.gif
 
 大森望氏との共著であるこの本は、「プロの小説読み」が、
文学賞の審査員たちをおちょくるという「からかい芸」を
味わいながら、作家・作品群に対する批評を読むことができる
という、「ブックガイド」としても充実しています。
 
 島田雅彦氏を招いた巻頭の鼎談も、楽しめます。

 豊崎・大森両氏が高く評価していた、堀江敏幸著『雪沼とその周辺』(新潮社)
を買ってみました。
 
 7作の連作短編集の1作しかまだ読んでいませんが、
上手いですね。

 さびれたボーリング場が迎えた最後の営業日の夜を
舞台にした「スタンス・ドット」というその作品は、亡妻と、
かつてのレッスンプロに対する店主の追憶が、物語の
柱といえます。

 閉店間際に偶然来店した若い男女が、その追憶への
案内役を演じます。
 20代とおぼしき女性の言葉遣いが、あまりにも「キッチリ」
しすぎているのが不自然(ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』のようです)
ですが、読後感は、「上手いなぁ・・・・」のひとことです。
 
 抵抗なくすっと読めるのですが、実に読み応えがあります。
 店主の心理描写が、絶妙ですね。

 抜群の技術に支えられた、一見(正確には一聴ですね)
あっさりとした、端麗・流麗な、ビル・エバンスの演奏に
通じるような気がします。

 『雪沼とその周辺』。
 残り6作も、じっくり楽しみたいですね。


 ちなみに私の好きなジャズピアニストは、「流麗」ビル・エバンスと、
「クセあり」セロニアス・モンクです。

 「溌剌かつセンシティブ」上原ひろみもいいですね・・・
by kase551 | 2006-11-08 21:17 | | Trackback | Comments(0)


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