高野文子さんの「黄色い本」「奥村さんのお茄子」「美しき町」は、
一見全く別のタイプの作品のようですが、作者自らの言葉どおり、 「テーマは同じ」だと思います。 私が考える三作品に共通するテーマは、 前回の終わりに書いたように、「生の連続性」です。 まず、「黄色い本」を見てみましょう。 主人公である高校生・実地子は、図書館で借りた フランスの小説『チボー家の人々』の作品世界に没頭します。 それは、感情移入というレベルを越え、作品の登場人物である ジャックと会話を続け、ジャックの仲間たちの会合に参加する (もちろんそれは、実地子の頭の中で行われているのですが) までに至ります。 そして彼らの「友情」が、実地子が本を返却し、高校を卒業して 就職した後も続くであろうことを、作品は示しています。 多くの人々に愛され続けてきた小説の主人公が、 また新たな読者(実地子)と出会い、その結果、 実地子の頭の中でジャックは生き続け、彼らの 「友情」も続くというわけです。 これが「黄色い本」における、「生の連続性」です。 次に、「奥村さんのお茄子」です。 20数年前の6月6日(木)の昼食に何を食べたかと、 突然質問されて、即座に答えられる人は、まず、いないでしょうね。 しかし、この作品では、その「1968年6月6日(木)の昼食に、 茄子を食べたか食べなかったか」が、宇宙人の先輩の運命を 左右する〔疑いを晴らすアリバイになる〕という、きわめて 大きな意味を持つという設定です。 宇宙人は、先輩のアリバイを立証するために、 奥村フクオが茄子を食べたことを裏づける証言を集めます。 それは、当時奥村氏の視界に入った少年や、その少年を叱った 教師や、その教師を眺めていた郵便局員たちの証言です。 箸でおかずをつまんで口に入れる短い時間・・・・ しかしその短い時間にも、さまざまな人たちが、さまざまなことを考えている・・・・ すなわち、その短い時に、さまざまな思い、さまざまな意味が込められているわけです。 今、私たちが生きているこの時は、その短い時間の延長上にあるんですよねぇ・・・・ そして今この時にも、さまざまな人がさまざまな思いを・・・ これが、「奥村さんのお茄子」から読み取れる、「生の連続性」です。 さて最後に、「美しき町」です。 「絵に描いたような」(マンガですから^^;)、誠実・質素なノブオ とは対照的に、彼の隣人であり工場の同僚でもある井出は、 「要領の良い」「出世するタイプ」の青年です。 「高潔な」ノブオに反感を抱いた井出は、 組合の名簿を一晩で作れという難題をふっかけ、 ノブオとサナエは徹夜でその仕事をやりとげます。 明け方、二人は温めた牛乳とクラッカーで、 しばし休息の時を迎えます。 作品集『棒がいっぽん』から、40~43頁の 「ナレーション〔ト書き〕」を引用します。 〔引用はじめ〕 工場が見えました 耳をすますとモーターの音が聞こえてきます さっきなにかのブザーも鳴りました たとえば30年たったあとで 今の、こうしたことを思い出したりするのかしら 子供がいて、おとなになって、またふたりになって 思い出したりするのかしら ノブオさんは、そんなふうなことを思っていました サナエさんも、そんなふうなことを思っていました 〔引用終わり〕 ノブオ・サナエ夫妻は、これから30年間共に生きることを、 当然と考えているわけです。 まさに、「生の連続性」です。 この「美しき町」という作品は、「美しきふたり」の 「生の連続性」を描いているんですね。 以上、「つぶやき」らしからぬ長談義となってしまいました。 「美しい国」を掲げる安倍首相と、戦前戦中の国家主義思想の 連続性に対する嫌悪感が、好きなものを語るという方向に、 私を向かわせたのかも知れません。 自己満足の長講釈にお付き合いくださり、ありがとうございます。
by kase551
| 2006-10-01 21:38
| マンガ
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