「美しい国」などという気色悪いお題目はまっぴらですが、
高野文子さんの「美しき町」というマンガは大好きです。 作品集『棒がいっぽん』(マガジンハウス)に収録されています。 何度も読み返している「愛読書」です。 舞台は、1960年代とおぼしき地方都市。 主人公は、その町の工場に勤務するノブオと、 妻のサナエ(おそらく双方とも20代前半)です。 人混みが苦手なノブオとサナエの休日のデートは、 町を一望できる神社までの散歩です。 神社の裏手に広がる町の様子(16~17頁)を初めて 目にしたとき、「おぉ!」と、うなってしまいました。 まさに「一望」です。 引用した頁(15頁、18頁)は、その前後の場面です。 坂口尚さんの絵を初めて目にしたときと同様の、「これはなんや?!」という感動でしたねぇ・・・・・ このような、抜群の画力もさることながら、 高野さんのマンガからは、テーマが明確に読み取れます。 『まんがの森』50号〔私はネット上で読みました。2002年掲載分です〕 に掲載されたインタビューで、彼女は次のように語っています。 Q:お話のストックというのは持っているものなのですか? A:ないですよ。実は何を隠そう、私が一番最初に考えつくのはテーマなんですよ。 青臭いでしょう(笑)。 これがやっかいなことに、いつもあるんだな。 まんがを描かなくてもあるんですよ。 まんが家じゃなかったりしてもあるんだな、きっと。 約25年前に、『漫金超(まんがゴールデンデラックス)』 (プレイガイドジャーナル社)で、高野さんの「田辺のつる」という 作品を目にしたときは、絵の巧さだけが印象に残り、 その「テーマ」に思いをはせることはできませんでした。 しかし、30代・40代になると、徐々に高野作品の 「テーマ」が読み取れるようになり、彼女の作品世界に 一層魅せられるようになりました。 前掲のインタビューで高野さんは、 「『奥村さんのお茄子』も『黄色い本』や『美しき町』」とテーマは同じなんですよ。 ただ作画の絵柄を変えたという、そういうところかな」と、述べています。 「奥村さんのお茄子」は、『棒がいっぽん』に収録されており、 「黄色い本」は、作品集『黄色い本』(講談社)のメインであり、 手塚治虫文化賞を授賞しています。 http://www.asahi.com/tezuka/03a.html 前者は、1990年代の日本に宇宙人が来訪し、 「奥村フクオという人物が、1968年6月6日(木) に茄子を食べたかどうか」を検証しようとする作品です。 これは、日本マンガ史(文学史)に残る大傑作です。 初出(『COMIC アレ!』1994年5月号)は見逃したのですが、 『ユリイカ』(青土社)2002年7月号に再録されたものを読み、 単行本収録作が、全面改稿(すべて描き直し)されたものだった ことを知りました。 単行本出版にあたり、部分的に改稿するマンガ家は少なくない のですが、全面改稿とは・・・・ ちなみに、「奥村さんのお茄子」は、初出も素晴らしい・・・・・ また「黄色い本」は、『チボー家の人々』の作品世界に 没頭する高校生が主人公で、こちらも大傑作です。 「マンガ嫌いの読書人」にもおすすめです。 この「奥村さんのお茄子」と「黄色い本」については、 日を改めて感想文を書きたいですね。 ほんま、人間業とは思えません・・・・・ さて、この三作品(三傑作)が「テーマは同じ」という発言 (「『奥村さんのお茄子』も『黄色い本』や『美しき町』」とテーマは同じなんですよ。 ただ作画の絵柄を変えたという、そういうところかな」という発言)に関する、 前掲のインタビュアーとのやりとりが興味深いです。 Q:同じなんですか?実は? 読者はそれを汲み取らないといけないですか(笑)? A:すぐにはわからんけど、いずれわかるよ、歳を取れば(笑)。 そういうやつですよ(笑)。 そう、ある程度歳を取れば、三作品に共通する「テーマ」が 見えてきます。 それは、「生の連続性」だと、私は思います。 続きは明日に・・・・・・
by kase551
| 2006-09-29 22:31
| マンガ
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