米原万里さんの死去を悼みながら・・・
彼女の『魔女の1ダース』(新潮文庫)を
再読し、映画『カサブランカ』に対する
彼女の問題意識に同感しながら、
「なんで日本の評論家たちは、あの映画を名画っちゅうんかなぁ・・・」と、
首をひねっております。
「時の過ぎ行くままに」という主題曲もそれほどいいとは
思えませんが(甘ったるく、単調です)、一番の問題点は、
酒場のシーンですね。
フランスの植民地だったモロッコのカサブランカが舞台です。
第二次大戦の序盤、フランスはドイツに占領され、
傀儡政権(ビシー政権)が支配する状態でした。
すなわち、当時のモロッコ(カサブランカ)においては、
ドイツが支配力を行使していたということです。
そのカサブランカの酒場でドイツ兵たちが、我が物顔で
ドイツの歌を歌います。
それに対抗して、フランス人たちが、フランス国歌
(ラ・マルセイェーズ)を高らかに歌い上げ、酒場の客たちも
それに同調するというのが、「酒場のシーン」です。
10年くらい前に、ビデオでこの場面を見たとき、
「はぁぁ~っ」と、ため息をついてしまいました。
おいおい・・・・
人の土地に乗り込んで植民地にしておいて、よう(よく)そんな
偉そうにできるなぁ・・・・・
ここはフランスとちゃうんやけどなぁ・・・
モロッコでっせ・・・・
「植民地にされる=国を失う」ということへの想像力が
皆無な人の多い日本では、この映画を「名画」ともてはやす人が
多いのですが、米原さんの著作によると、カザフスタン人たちは
違うようです。
ソ連(ロシア)による圧迫を受け続けてきたカザフスタンの人々にとって、
フランス人たちの能天気な傲慢さは、許しがたいことのようです。
『魔女の1ダース』から引用します。
不評の原因は、ナチス・ドイツからのヨーロッパの解放をしきりに叫ぶ
主人公たちが、フランスの植民地であるモロッコに平気で支配者面している
おめでたさにあった。
同じアジアのカザフ人は、この欧米人の無神経さに即座に気付いたのに、
日本人は、戦後この映画が上映されるや名画として有り難く奉った。「脱亜入欧」、
上昇志向の強い日本人の思考回路は、完全に名誉白人しているらしい」
(118-119頁)
昨年、これを読んだとき、「その通りや! ほんまやで!!」と
付箋を貼り付け、米原さんへの好感が増しました。
改めて、ご冥福をお祈りいたします。