人気ブログランキング | 話題のタグを見る

藤代泉「ボーダー&レス」感想

  「文藝賞」を受賞した藤代泉「ボーダー&レス」を
読むために、『文藝』冬号(河出書房新社)を買う。

 一読した感想は、「イヤな作品やなぁ・・・・」

 以下、「ネタバレ」になるので、スペースを空けます。
藤代泉「ボーダー&レス」感想_c0040369_2227372.jpg

 「良く言えば拘泥しない。悪く言えばいい加減」(226頁)
な新人サラリーマン・江口が、同期入社の
在日コリアンであるソンウと出会う。
 ふたりはなんとなく馬が合う。

「在日」に対して無知・無関心であった江口は、
ソンウとのつきあいを通して、自分とソンウの違い、
自分とソンウの間にある境界線・溝に気づいてゆく。

 江口はソンウの涙の意味を理解できない自分を
申し訳なく思いながら、それでも彼と向き合っていこうとする。


 で、なんで俺が「イヤ」と感じるかっちゅうと・・・

「お母さんも偽名使ってるの?」(234頁)
「名前ふたつ?」(同上)などとゆうとる江口に、
ソンウが次のような「民族論」を語るんよねぇ・・・

「国って機構もまぁまぁ大事だし、エスニシティに愛着を
持つのもまぁまぁ理解できるけどね。でも国境も民族も
流動的でしょ。だからそんなもんは一時期のくくりに過ぎないんだから、
俺はあんまりそこに固執したくないんだよね」(268頁)

 これは、「在日は北へ帰れ」とスプレーで落書きされた
ソンウのアパートのドアを拭きながら、ソンウが江口に語ることば・・・

 こんな論文みたいなことばを、直接ゆぅかぁ?
 ヤダヤダ・・・・

 そして、江口の同僚の友人である、在日四世という女性の
造形もひどい。

 「私在日四世なんです。ルーツは韓国なんです、でも帰化しているので
 日本国籍なんですよ、だから私選挙権あるんです」(280頁)

 「家族全員帰化していて、本名も『新井美姫』一つで、日本の学校に行った。
 日本生まれ日本育ちだけどルーツは韓国だから韓国に愛着がある。今フリーターで、
 ダンサーをしてる。ダンサーとしての名前は韓国読みの『ミヒ』でやっている。
 チマチョゴリをモチーフにした衣装とか自分でデザインして、今っぽくして着たり、
 韓国の伝統的なスタイルを取り入れてダンスしたりしてる」(同上)
 
 「えー! すごーい! 民族学校行ってた人とか、私の在日の友達ぜんぜん
 いないんですよ。いいなー、私も行きたかったです」(281頁)

  中学校まで民族学校に通い、「そもそも父方が韓国でも特殊な地域から来てたし、
 母方は北だし、もともと在日の人達からも疎遠だったから」(281頁)という設定の
 ソンウと対比させるつもりの造形やろうが、ちょっとひどすぎるよねぇ・・・・  

 なんか悪意でもあるんかなぁ?  

 この「ノーテンキな在日女性」に辟易したソンウと江口は、江口の部屋で飲み直す。

 そしてソンウの「民族論」。

 「好みで国やエスニシティを選択するような心の余裕なんて俺にはないんだよ。
 俺にとって民族文化は趣味で取り入れるようなカルチャーじゃないし、アクセサリーの
 ように取り外しできるもんでもない」(284頁)
   
  江口のような人間に、こんな「民族論」を語る在日コリアンがいてるんかなぁ?


  そして、ソンウと向き合おうとする江口が、携帯電話のディスプレイで示すことば。

  「それでもね、そんなソンウもサランヘヨ」(295頁)

  さらに、「子どものように安らかな顔」(295頁)のソンウを見守る江口・・・

  おいおい・・・・
  なんでお前が、上から目線なんよ? 

  
  でもこの作品は、「こんな生煮えの民族論や、
 上から目線のことばを、昔俺もゆうとったんちゃうか?」と
 自戒させてくれる。
by kase551 | 2009-11-06 22:32 | 「在日」 | Trackback | Comments(2)
Commented by at 2009-12-20 19:42 x
はじめまして 突然失礼します。
さきほど「ボーダー&レス」を読み終わった日本人です。

私は読む前にあらすじを見て、なんか読んだらイライラしちゃうかも
と思いましたが読み終わりやはりイラっとする部分はありました。

「江口」が感じる無力感て、何かしてから感じるならいいけど、
本とかせめてウェブとかで植民地とかについて調べたのかなとか、
身近な日本人の子たちや昔の自分を思い浮かべさせられるからイラっとするんだろうなと思いました。

そして最後の「サランへヨ」のせりふ・・・。
教育や政策や運動やいろんなものを無視してるけど、日本の文学界ではこれで賞をもらえちゃうんだ、ということは知ることができました。。

突然おじゃましました。

Commented by kase551 at 2009-12-21 22:11
 はじめまして。コメントありがとうございます。
 
 おっしゃるとおり、「江口」って、自分からな~んもしないで、
無力感に「酔って」いるんですよねぇ。
 記事では「ソンウと向き合おうとする江口」と書きましたが、
ほんとうは向き合っていないんですよねぇ・・・

 でも、ひょっとしたら彼も変わるかも?
 そのあたりに期待しましょう。^^;

 でも不出来で不快な小説であることには変わりなく、
米さんのご指摘のように、「これで賞をもらえちゃう」
ことに、なんだかなぁ・・・と思います。 


<< 声を挙げ続けよう 中古マンション広告 >>